KEYNOTE 02 WITHコロナ時代の未来シナリオ

KEYNOTE 02 WITHコロナ時代の未来シナリオ

はじめに、 現場最前線で我々の生活を支えて頂いている医療従者者の方々他、生活インフラ関連従事者の皆様に心より感謝いたします。
5月11日現在、日本全国に新型コロナウィルスに伴う緊急事態宣言が発令中である。宣言解除後も、ワクチンの完成や普及までには相当年がかかる見込みで、人類が長期にわたって、この感染症と共生する日々を送ることは間違いない。

私にとって、SDGsとは、人類に関連する17領域にわたる複雑な課題の全体像と因果関係を掴み、自分自身が、仲間とともに、何を、どう取り組むべきかを考える「未来の羅針盤」として優れたツールだと考えている。
そこで、新型コロナとともに生きる2020年代の地域社会の未来シナリオをSDGs視点で10個描いてみた。各シナリオとその骨子となるキーワード、因果関係を示すマップが以下である。

 

 

10の未来シナリオ

 

10の未来シナリオの概要は以下の通りである。こちらはあくまで筆者が思い描いた未来の可能性であり、科学的エビデンスに裏付けられものではないことはお知りおき頂きたい。

 

ハレからケへ
– 生活の力点が非日常から日常へ –

 

外出自粛・接触回避に伴い市民、特に大都市圏居住者の働き方は劇的に変化した。長年、会社員の間では定着しなかったリモートワーク化が一気に進んだ。この流れは収束後も完全に元に戻ることはないだろう。その結果、働き方は多様化し、多くの会社員が自宅で過ごす時間が増え、居住地域・住宅空間の重要性がより高まるであろう。生活の力点が、繁華街での外食や娯楽、海外旅行等の非日常(ハレ)から、自宅と周辺地域での食事や商店街や公園での時間等の日常(ケ)へと移るに違いない。家族や地域で過ごす時間が増え、家族の絆強化地縁コミュニティへの好影響も起こりうる。出社しない、ハレの場が減ることで、ファッションのコモディティ化も進むだろう。

 

セミベーシックインカム社会
– 安定した生活の下、誰もが挑戦できる社会 –

 

リモートワークやオンライン学習の普及により、障害等により通勤・通学が困難な人が働きやすい・学びやすい環境、働と学のインクルージョン化が進み、不登校や引きこもりという言葉が死語になる未来を期待したい。インターネットへのアクセスが生活に不可欠となり、通信回線・機器などが補助・無償貸与されるなど、通信のフリー化が進むであろう。
また、国や自治体による生活や事業の支援と手続き簡素化のために電子政府化が進み、経済的安定の下で起業や新規事業に誰もが挑戦しやすい社会が実現するかもしれない、そんな希望込みのシナリオである。

 

逆都市化
– 都心から郊外へ、大都市圏から地方圏へ –

 

仕事と生活の変化は、日本の都市構造に大きな影響を与える可能性がある。通勤しやすい都心の過密地域で暮らす必要性が薄れ、人口密度が低く十分な空間を確保でき自然との距離が近い地方圏や郊外の価値が高まるであろう。その結果、長年続いてきた人口の集中が止まり、大都市圏から地方圏へ都心から郊外へと都市構造の分散化が進む可能性が高い。近年増えつつある多拠点居住もより一般的になるであろう。

 

広がる格差、消える技能
– 中小企業・職人の知・技・味の喪失 –

 

外出自粛に伴う経済活動の停止の地域経済への影響は大きい。国・自治体の支援が遅れることによるままにあわない倒産に加え、コロナ以前から人材不足等で継続が困難であった地域の事業者や職人が、これを機に継続を諦めるもういっか廃業が進みそうだ。事業の継続はオンライン化への対応力によるところが大きく、オンラインリテラシーによる格差が広がるだろう。その結果、高齢化が進む地域の多様な技・知・味の喪失が危惧される。

 

デジタル無縁社会
– オンライン化と接触自粛が変える人間関係 –

 

外出自粛・接触回避、地域コミュニティ・会社コミュニティの衰退、介護サービスの休業も重なり、高齢者や障害者の孤立も、うつ病や自殺者(近年減少傾向にあった)の増加も危惧される。DV・虐待・望まぬ妊娠など家族内トラブルの増加も見られる。コミュニケーションのスタイルが変わり(空間・間接・簡潔の三間化)、フェイクニュースや誹謗中傷などの激化も危惧され、オンラインを使いこなせる人、使いこなせない人による人間関係の格差が広がる可能性が高い。

 

身体性の技術代替
– 安全確保のためのリアル・バーチャル融合 –

 

恋愛・結婚・葬式・卒業・入学など、人生のオンライン化が進む。接客・販売・公共交通・宅配・ケアなど、人の手を介することが安心材料だったサービスの安心基準が180度反転し、人の手を極力介さないテクノロジーへの代替が進む。VR他、五感拡張技術も急激に進化するであろう。これらは、人口減少による深刻な労働力不足に悩まされる地方圏にとっては、プラスの影響も大きい。

 

文化の進化
– 消える・変わるの二極化 –

 

スポーツや音楽・祭・伝統芸能など、人と人の接触が前提となる文化活動が危機的状況にある。学校のクラブ活動や大会なども中止が相次いでいる。緊急事態宣言解除後に、密室空間での密な接触が前提のイベントが完全に元に戻るとは考えづらく、視聴や参加のオンライン化など、技術による一部機能の代替など、新たな形態へと進化を遂げるであろう。逆に、環境変化に適応できないものは淘汰されていく。一方、安全性を確保した上で開催されるイベントの価値・希少性があがり、リアルのプレミアム化が起きるであろう。

 

テクノロジーの権力化
– 安全性・危険性が表裏一体の技術主導社会 –

 

感染防止のために、個人の移動・健康情報(発熱、免疫等)、公共空間の情報(人口密度や換気情報)などの公開、A.I.によるデータ分析などが進む。データの見える化により、誰もが安全性を確認できるようになる一方、技術への過度な依存が進むことで、詐欺やフェイクニュースの被害が増え、個人行動が公に晒される監視社会となる危険性も秘めている。データ社会の新たなルール、枠組み作りを早急に行う必要がある。

 

社会インフラの決壊
– コロナ・高齢化・自然災害の3難による危機 –

 

高齢化に伴う社会保障費の負担増などが原因で国と地方自治体の財政はコロナ前から危機的状況であった。介護人材は2025年に38万人不足が見込まれるなど、医療・介護インフラも危機的状況にあった。ここ数年の台風等の自然災害で道路や河川等のインフラの修繕・維持費用の負担も大きい。東京オリンピックの延期も加わる。コロナ以前より最重要課題であった財政と社会インフラの課題はもう待ったなしの状態であろう。

 

気候変動の加速
– 経済の危機で忘れ去られる人類の危機 –

 

短期的には経済活動が止まったことにより、地球環境は改善しているように見える。しかし、感染防止のため、プラスティックバック・容器などのプラスティック製品の大量消費への回帰が起こっている。11月開催予定であったCOP26が延期されるなど、世界各国で気候変動対策の先送り経済優先への政策転換が起きかねない。原油価格の歴史的低迷は市民の省エネ意識を減じ、再生可能エネルギーへの転換を阻害しかねない。気温上昇は増殖する蚊等を媒介とした新たな感染症の発生リスクも高める。2002年のSARS、2012年のMERS、そして2020年のCOVID-19と続く感染症は、地球の生態系の異常の現れだと見ることもできる。その予防という意味でも、気候変動対策への注力、そして気候変動対策を通じた経済成長の可能性を模索することが求められる。

 

コロナ禍がもたらす地方創生・新時代の幕開け

 

新型コロナウィルスの流行に伴い、地域生活のありとあらゆる面が影響を受けている。私自身も法人の経営者として大幅な売上減や4月開始予定の新規事業の無期延期という事態に直面しているが、経済活動の停止をはじめ、負の影響は大きい。

しかし、目の前の不安に怯え、呆然と立ち尽くしているだけでは、未来は拓けない。この苦境の先にある未来に向けて、自分自身で考え、必要な知を集め、未来の姿を描き、その実現のために綿密に準備し、動き始める時期である。これを契機に急激に普及するテクノロジーは地域の距離的制約をゼロにしてくれる。東京一極集中の流れは変わった。開放的で混雑のない空間での生活に大きな価値があることが再確認された。

新型コロナウィルスとともに生きる2020年代を構想し、先んじて行動できる地域、事業者、市民には恵みあふれる未来が待っているに違いない。

 

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次の連載もお楽しみに。

 

書籍情報

持続可能な地域のつくり方(英治出版)

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