「未来をつくる道具 わたしたちのSDGs」出版記念 川廷 昌弘 × 筧 裕介 対談レポート

「未来をつくる道具 わたしたちのSDGs」出版記念 川廷 昌弘 × 筧 裕介 対談レポート

2020年9月、博報堂DYホールディングスグループ広報・IR室CSRグループ推進担当部長の川廷昌弘氏による新刊「未来をつくる道具 わたしたちのSDGs」(ナツメ社)が出版されました。

川廷氏は企業人として様々なSDGs普及事業に携わる中で、神奈川県非常勤顧問や茅ヶ崎市、鎌倉市、小田原市のSDGs推進アドバイザー等の様々な立場から日本のSDGs普及を牽引されてきました。

2020年11月4日にBOOK SHOP 無用之用にて川廷氏の新刊出版記念トークイベントが開催されました。前半のトークでは、国連文書に書かれたSDGsを日本語翻訳するプロジェクトや、神奈川県・宮城県南三陸町といった各地域での取り組みの様子、またその事例を世界に向けて発信した際の実体験や反応をお話しいただきました。

本記事では、トークに続いて行われたissue+design代表・BOOK SHOP無用之用共同店主の筧裕介との対談の様子をレポートします。

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SDGsは持続可能な次世代社会をつくるための最初のマイルストーン

―達成期限まで10年に迫る2030年目標のSDGs。一方、気候変動対策においては次世代を見据えたより長期的な視座が求められます。今回の対談は、登壇者の二人が抱くSDGsに対するある”もやもや”の告白からスタートしました。

 

川廷昌弘(以下、川廷)

SDGs時代に生きる者として、ずっと自問自答していることがあります。地球に暮らす生き物として我々人間が作り出す製品は、本来は生態系の大きな循環の中に属するものでなければならないのではないかということです。

例えば再生プラスチックの技術は、確かに現在のプラスチック問題を解決する手段としては有望です。しかし100年後の社会を考えた場合、”SDGs”として今つくろうとしている対症療法的な仕組みが次世代へしわ寄せが及んでしまう可能性もあるのではないでしょうか? Society5.0などの今の日本が目指そうとしている未来社会には、そうした視点が十分に備わっているのでしょうか?僕自身も自己矛盾を抱えながら”SDGs”を呼びかけている気がしていて、辛いんです(笑)。

 

筧裕介(以下、筧)
川廷さんのお話を聞きながら、実は僕も近い部分でもやもやしていました。僕もSDGsを推進する立場の人間です。特に過疎化が進むような中山間地域において持続的・包括的な視点で地域の未来をつくるためにSDGsが道具として役立つことには100%同意します。

しかし菅首相がゼロ・エミッションの目標として掲げた2050年、さらにその先に向け気候変動にどう対応していくか、という議論に対して、2030年を目標とするSDGsは近視眼化させてしまう恐れがあるように感じます。SDGsと次世代へ向けた議論はどのような関係性で捉えれば良いのでしょうか?

 

川廷
SDGsは本来、「トランスフォーメーション」であるべきなんですね。つまり、100年後まで持続可能な社会であり続けるためには、”今”変革を起こさなくてはいけません。そのひとつのマイルストーンが2030年に向けたSDGsなんです。
気候変動問題も、気温上昇を産業革命以前と比べて1.5度以内に抑えるためには、温室効果ガスを毎年7%以上削減しないといけません。今回新型コロナウィルスの影響で経済が停止してやっと7%削減が達成できるという試算があります。つまり、経済成長しながら年率7%の削減という目標は非常に困難なミッションです。だからこそ今、仕組みを変えないと間に合わないわけなんですね。その最初のシフトを終える期限が2030年であると捉えています。


そういう観点で言うと、SDGsでは2030年にこういう状態でありたいというゴールが明確に示されています。しかし達成期限まで残り10年に迫っている現時点で、持続可能な社会のために経済をどこまで優先するかといったことも含めた社会システム全体の議論が十分になされているとはとても思えないんです。

 

川廷
確かに仕組みの議論は足りないように思いますね。一方で僕が2005年にチームマイナス6%(注1)に携わって、クールビズを推進した時の世論と比べると、SDGsの着火の仕方は比較的うまくいっているとも思っています。若い世代も以前より社会性があり意識の高い人が増えてきた実感があります。かなり多くの人が問題意識を持っているのは確かです。

 


2019年くらいからSDGsによる変化の兆しを感じてはいます。でも間に合うかなという不安はありますね。以前は技術力で推し進めてきた日本の環境対策がここ10年くらい伸び悩んでいる印象があります。一方で、ヨーロッパでは元々環境問題に対しては哲学があり、パリ協定(注2)を旗印に若いリーダーたちが社会システムの変革を牽引しています。日本社会がSDGsの先に向けたビジョンを捉えて変わっていくために、我々にできることは何でしょうか?

 

川廷
僕が関わってきた中で期待したいのは日本の各自治体です。自治体職員の方たちは、自分たちの暮らす地域の持続的な未来をつくる方法を常に業務として考えています。そこに民間や若い世代がうまく連携できるよう後押ししていくことが、日本の社会システムを変えていくことにつながると感じています。

 

新型コロナウイルスによる社会インフラの変化を転換点に



若い世代では経済合理性を前提とせず、地域の豊かな生活を選択する人が増えてきています。一方で東京や大企業を中心とする日本社会全体の仕組みとしては、経済成長を進めながら温室効果ガスを年率7%減らそうとしています。この両立は未だに方法論が無いわけで、正直無理を感じています。
日本の場合、温室効果ガスの多くは産業から排出されており、国民が小さな努力を積み重ねても限界があります。大企業が大きな転換をしないと変わらないのではないですか?

川廷
新型コロナウィルスの影響で社会インフラが強制的に変わりつつあります。稼ぎだけに囚われるのではなく、自分の身の丈に合った自由な生活に価値を感じる時代が来る予兆があります。そこから、2050年の排出ゼロという共通目標に向けた新しいライフスタイルを育てるための良いヒントが生まれてくる気がしています。

 


それを加速させていく方法はありますか?

 

川廷
そこで登場するのがやはりSDGsだと思います。SDGsという共通の目標に向かって協働することで、動きを加速するための新しいつながりが生まれています。また、SDGs自体が時代を超えた連鎖を作る道具になっています。

 

金融視点を取り入れて自社の活動をアピールせよ

 


企業でもSDGsに取り組み始めているところが増えてきていますが、まだまだ自分たちの企業システムを本質的に変えていくところまでは到達していなくて、既存の業務内容をSDGsに当てはめて満足している印象があります。SDGsが自分たちの企業を本気で変革していくための道具として認識されるために必要なことは何でしょうか?

 

川廷
外からはSDGsにタグ付けしているだけのように見える場合でも、内部ではそれではダメなことに気が付いてSDGsを変革の道具にしようとしている人たちは思いの外多くいます。例えば企業のサステナビリティ部門に抜擢された社員の中には、自らの企業の持続可能な有り様をつくりたいと思っている人たちが社内で奮闘しています。そういう人たちをみると自然と応援したくなります。 


そういう人たちはまだ企業の中でも端っこで、失望して外に出て行ってしまう人も多い気がします。大企業の影響力が大きい日本においては、彼らを後押しすることも大切だと思います。

 

川廷
2つの経歴の人たちがいると思います。一つは元々企業の中で社会意識が高く、自社の商品やサービスでSDGsに貢献したいと思っている人たちです。今は加えて、金融系で育ち自分が関わっている企業のESG投資の評価(注3)を向上させ成長させたいと思う人たちが増えてきています。そういう人たちが金融側から、もしくは企業の中に入り、ESGの評価を受けるにはどんなアピールが必要かという視点で企業の潜在的な強みを育てようとしています。
その観点で言うと、企業側から金融側に向けて自社のSDGsに向けた取り組みをしっかりとアピールしていくことも大事です。踏み込んだ対話によって多くのヒントやアイデアが得られます。結果として会社全体で、社会的に良い取り組みを育てようという空気が醸成されてくるように思います。

 


私が長く話し過ぎたせいか、あっという間に時間が来てしまいました(笑)。

 

川廷
私こそ、SDGsの話になるといつも熱くなってしまうんですよ(笑)。

 


本日は貴重なお話、どうもありがとうございました。

 

川廷
ありがとうございました。

注1 チームマイナス6%
2005年に発効した京都議定書を受けて、温室効果ガスを抑制するために日本政府が主導したキャンペーン。

注2 パリ協定
2015年にフランスのパリで開催された第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択された気候変動抑制に関する多国間協定。

注3 ESG投資
環境(environment)、社会(social)、企業統治(governance)に配慮している企業を重視して行う投資。

文責 issue+design