KEYNOTE07 地域の持続可能性を脅かす気候変動

KEYNOTE07 地域の持続可能性を脅かす気候変動

持続可能な地域の実現のために欠かせないものであり、SDGsの最重要課題。それが気候変動である。実は、新型コロナウィルスの感染拡大の影響を大きく受けている分野でもある。そこで、これから数回にかけて、地域の持続可能性と気候変動について論じていきたい

 

気候変動とは

近年、化石燃料の大量消費による大気中の二酸化炭素濃度の増加が主な原因で、急激な気温の上昇が起こり始めており、地球の気候や生態系に大きな影響が出始めていることが懸念されている。

こうした気候変動への対応のために、気候変動枠組条約加盟国による締約国会議(COP)が1995年から毎年開催されており、同条約をもとにした2008年から2012年の先進国の温室効果ガスの削減目標等を定めた京都議定書、2015年に採択され2016年に発効したパリ協定などの存在は、多くの方がご存知であろう。しかし、日本の気候変動対策は東日本大震災の影響もあり、この10年は停滞状況である。

 

緩和と適応

気候変動への対応には、大きく2つの分野がある。ひとつは気候変動の発生を抑止する「緩和(Mitigation)」。である。化石燃料から再生可能エネルギーへのエネルギーシフト、省エネなど通じて、温室効果ガスの排出量をできるだけ削減し、気温の上昇を抑えるための活動である。

もうひとつは、気候変動に伴う自然災害への備えや食糧生産の見直し、水の確保など、変わりつつある気候への「適応(Adaptation)」である。どうしても、気候変動対策というと、省エネなどの「緩和」がフォーカスされがちだが、現実的に変わりつつある気候への「適応」の重要性を忘れてはいけない。

これからの時代は、変動する気候に「適応」しながら、変動を最小化するための「緩和」を目指す。この両者の両立が求められる。

 

気候変動の地域への影響

気候変動問題への対処が難しいのは、この問題が地球レベルの巨大な課題に思え、どうしても自分の課題、地域の課題だと思いづらいところにある。しかし、気候変動は間違いなく「地域」の課題であり、皆さんの「生活」の課題である。

気候変動が地域生活・地域経済に与える影響は主に5つの分野にわたる。分野別に気候変動がもたらすシナリオをまずは見ていこう

 

自然災害頻発シナリオ

多くの方が気候変動を実感できるのが、近年頻発する台風などの風水害が頻発していることであろう。昨年9月の令和元年東日本台風、今年7月の九州豪雨が記憶に新しい。九州や沖縄、四国、紀伊半島など、台風の通り道の一部地域の問題と捉えられていた問題が、日本全国、ほぼ全ての地域にとって関係が深い社会課題となりつつある。

気候変動の影響により、豪雨や台風が増加し、それに伴う土砂崩れや山腹崩壊、河川氾濫に伴う洪水などの自然災害が全国各地で頻発し、死者・負傷者などの人的被害が近年増加している。風水害による人的被害は、避難・移動が困難で停電などの影響を受けやすい高齢者・障害者、情報弱者になりがちな外国人などが被りがちである。

また、新型コロナウィルスの影響により、三密になりがちな避難所は感染リスクも高く、新たな問題も生じている。

さらには住宅や農地・インフラなどの損害が甚大で、基盤産業である農業や漁業を始めとした地域経済へのダメージが大きい。その後の復旧・復興には多大な費用と時間がかかり、地方自治体の財政も圧迫する。また、大きな自然災害があるたびに、地域住民の足である公共交通網が損傷し、復旧まで時間を要したり、そもそも不採算路線だということもあり、路線の廃止や他の交通手段への代替も起きる。公共交通の弱体化は、住民生活に大きな影響を与え、住民の地域外への転出、人口減少を加速させることにもつながる。

台風を始めとした風水害は今後も増えることが見込まれ、確実にこの環境変化に「適応」していく必要がある。

図表 自然災害増シナリオ(筆者作成)

 

水不足シナリオ

2つめのシナリオが水不足を引き起こすというものである。日本は水道をひねればいつでも飲用可能な水が出てくる、水が豊かな国というイメージが強い。また、台風などの豪雨が増えていることもあり、水不足を実感するのは難しい。しかし、気候変動による水不足時代はもう目の前かもしれない。多くの人が実感しているように、台風やゲリア豪雨などの大雨(日降水量100mm以上)の日数は増加傾向にある。一方、日降水量1.0mm以上の適度な雨の日は減少傾向にある。つまり、極端な大雨は増えているものの、農作物を潤わし、生活用水を蓄えてくれる恵みの雨が降る日は減っているのだ。もちろん、降雪量も気温上昇の影響で減少している。人口が集中する首都圏は、2016年夏にも利根川水系で取水制限があったように、慢性的な水不足が続いている。

降雨量・降雪量の減少、猛暑の増加による水不足、水需要の増加の結果、水と水源を求める国家や地域間の争い、水紛争が国際社会では頻発している。日本人にはなじみが薄いが、外国資本による水源林の買い占めは、地域にとって、日本国にとって大問題である。

今後も、適度な降雨日は減ると予測されており、水不足への「適応」は人類共通の、そして地域にとっても大きな課題である。

図表 水不足シナリオ(筆者作成)

 

次号では、気候変動が地域にもたらす
「食糧危機シナリオ」「健康被害シナリオ」「文化喪失シナリオ」を紹介していきたい。

 

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書籍情報

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