この原稿を書いている8月末時点でまだまだ感染拡大も落ち着かず、今年の夏はお盆の帰省への自粛ムードが強く、国内観光もまだまだ下火の状態である。GOTOキャンペーンは始まったものの、感染予防と経済拡大、どちらを優先させるべきなのか日本全体が揺れている。地域の観光関連の事業に携わる方々の反応も、東京からの観光客に来て欲しいという声、とにかく来てくれるなという声に二分されている。
この状況ではあるが、私自身は「“徹底的な”感染予防」を前提に、通常の経済・生活活動に戻すことが望ましい、すなわち旅行も楽んだほうがいいというのが基本的なスタンスである。
そこで、我々は様々な自治体職員、飲食・物販・観光関連の事業者、医師や医療介護の専門家などと、感染予防と観光振興を両立させるための方策を議論をしている過程で生まれた、主に地域の飲食・宿泊・物販・イベント等の事業者の感染予防のための活動「新型コロナウィルス感染予防Play !」を8月よりスタートした。その活動を紹介する。
新型コロナウィルス感染予防Play!
このプログラムの目的は、地域で人が集う場、飲食・物販・宿泊・イベントなどを運営する事業者が感染予防の正しい知識とスキルを学び、自らの場のために必要な予防策を考える力を身につけることを目的としている。政府や自治体、業界団体などから多数の感染予防ガイドラインが出されており、それを遵守すればいいようにも思える。しかし、実際に現場でやるのはそんなに簡単ではないという声をよく耳にする。地域性も、顧客特性も、空間も、コンテンツも、資金力も様々であり、その場によってできる対策、できない対策がある。地域のお祭など、ユニークなコンテンツや複雑な形状の空間も多く、スタンダードな感染症対策ではカバーしきれないことも多い。
そこで必要なのが、「自分自身で感染症対策を企画する力」である。この力を身につけるために、このプログラムは以下3つで構成される
プログラム1体験:感染症予防ロールプレイ
プログラム2知識:感染症予防の基礎知識
プログラム3実践:独自予防策プランニング
プログラムの概要
参加者:地域で人が集う場、飲食・物販・
宿泊・イベントなどを運営する事業者
人数:数名〜50名程度
時間:半日程度
参加形式:集合研修型/オンライン研修型
いずれも可能
プログラム1 感染症予防ロールプレイ
第一のプログラムは仮想空間をベースに感染対策をロール・プレイするものだ。ある地域のスーパーマーケットの店長という立場になり、店内外の5つの場所(ステージ)を舞台に感染リスクポイントを発見し、そのポイントの感染予防策を考える。ワークは原則的に3−5人程度のグループで行う。各ステージごとに専門家監修の正解予防策の半数以上を実施できないとそのスーパーの感染リスクがどんどん上がっていく。
最終5ステージを終えて、感染症リスクが5まであがると、このスーパーはクラスターが発生し、経営が危機的状況になってしまう。
具体的な場を舞台に、ゲーム感覚で仲間とともに楽しみながら感染リスクがある場所、その対策を考える力を養うプログラムである。
プログラム2 感染症予防の基礎知識
続いて、専門家による講義である。このプログラムは3人の感染症関連の医師、研究者の監修の元、制作されている。単に講義を聞くだけでは、どうしても知識は頭に定着しない。自分なりに考えた上で聞くことで、自分の思考と知識が結びつきより深く理解することができるようになる。
プログラム3 オリジナル予防策プランニング
最後が、自分が運営に携わる具体的な場での予防策を考えるパートだ。予防策のプランはオンライン上の次の5つのシートで行う。
① SITUATION 場の状況
② CONTAGION 接触感染リスク低減策
③ DROPLET 飛沫感染リスク低減策
④ AIR 空気感染リスク低減策
⑤ MAP オリジナル感染予防マップを描く
旅館、土産物屋、秋祭り、演劇イベント、各自が自分なりのプランを考え、仲間に披露し、そのフィードバックをもらう。また、各自の感染症予防策はオンライン上のチェックリストで採点し、不足している点を把握することもできる。
地域の全ての事業者に感染症予防リテラシーを
現在、このプログラムを多くの自治体との連携で、全国各地の事業者へ届ける活動を行っている。この活動を広げるために鍵を握るのが、住民同士のつながりである。プログラム自体も学び合うことを一つのポイントとしている。また、このプログラムを実践してくれる感染症予防Play!ファシリテーターの育成も同時進行で計画している。プログラム受講者の中で、自分自身で地域の人向けに開講したいという思いがある方にプログラムの運営スキルと資格を渡して、この知恵の伝道師の役割、地域での場を開催する役割を果たしてもらうのだ。
新型コロナウィルスとともに生きる時代がしばらく続くのは間違いない。そんな時代に地域に必要なのは、医療機関・治療薬・ワクチンだけではない。
住民が正しい知識を学ぶ力、自ら考え行動する力、そしてともに学び合う姿勢、感染予防の知と行動が広がるコミュニティの力に違いない。
\\thanks//
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