前回は、コロナ禍での地域社会の未来シナリオを10個提示した。
今回は、その中から特に地域コミュニティと関連が深い2つのシナリオを掘り下げ、地域コミュニティの未来とまちづくりについて考える。
ハレ(グローバル)からケ(ローカル)へ
地域コミュニティと関係が深いのが、生活の力点が変化するというシナリオだ。外出自粛に伴い日本人、特に大都市圏居住者の働き方は劇的に変化した。長年、会社員の間では定着しなかったリモートワークが一気に定着し、この流れは収束後も元に戻ることはないだろう。完全リモート型から、リモートと出勤のハイブリッド型まで、働き方は間違いなく多様化する。その結果、多くの人が自宅で過ごす時間が増えることになり、居住地域・住宅空間の重要性がより高まるだろう。
銀座・渋谷・表参道など、華やかな繁華街での外食や娯楽、海外旅行等の非日常(ハレ=グローバル)を満喫する生活から、自宅や近所での家族との食事、商店街や公園での地域住民との交流等、居住地域での日常(ケ=ローカル)を充足する生活へ。市民の価値観、生活の力点はシフトするに違いない。
家族や地域で過ごす時間が増えることで、家族関係や地縁コミュニティへの好影響も期待できる。
これまで地域活動に無縁だった働き盛りの世代(特に男性)が日常的に在宅しているのであれば、日中や夕方からの自治会の活動、お祭りやイベントに参加できることになる(三密を回避する工夫は必要だが)。都心で働く会社員の中には、自宅周辺には居場所がない人も多いだろうが、これからはそうは言っていられない。会社員の地域での居場所づくりが始まるにちがいない。
都心から郊外へ、大都市から地方へ
仕事と生活の変化は、都市構造を大きく変える可能性がある。
バブル崩壊、1995年の地方分権推進法などの影響で、平成のほぼ全期間にわたって地方圏から大都市圏(首都圏・関西圏・名古屋県)への人口が流出し続けた。
また、2002年の都市再生特別措置法による規制緩和などの影響で、都心で高層タワーマンションが続々建設され、大都市圏の中でも郊外から都心へと人口が集まり続けた。
しかし、大都市圏・都心で働くことを前提としたこの2つの潮流が変曲点を迎えている。リモートワークの普及で、毎日都心まで出勤することが当たり前の時代が終わる。通勤のためではなく、日常生活の充足のために、居住地を選択するようになる。在宅時間が増えれば、広い空間を求めたくなる。自粛期間中には、オープンかつ他者と接触しない「庭」という私空間の重要性が再確認された。また、書斎(リモートルーム)が自宅に欠かせないものになるかもしれない。
多拠点居住も大きく進むであろう。海辺や山間のセカウンドハウスは、これまではせいぜい週2日しか使えなかったが、週3~4日を過ごせるとなると、取得意欲は大きく高まる。人類の歴史は都市化の歴史とも言える。人は利便性・経済性を求めて、農村から都市へと移り住んできた。
この潮流が大きく変わる「逆都市化」の局面に直面しているのかもしれない。
オンライン化で高まる参加者の多様性
コミュニティが変われば、まちづくりも変わる。
ハレからケへの生活の力点の変化、大都市から地方圏へ、都心から郊外へという人口の分散は、地域のまちづくりに新たなプレーヤーを招き入れる大きな機会である。この歓迎すべき流れを加速するもう1つの要素が、まちづくりのオンライン化である。
我々も数多くの地方創生プロジェクトを手掛けており、3~5月は多くのワークショップが中止となった。一部はオンラインで開催したが、伝えられることは限定される、身体ワークが難しいなどの難点ももちろんあるが、良いことも多数ある。
一番は、時間的・地理的制約が減り、参加者の多様性が高まることだ。まちづくりの場は、どうしても年配の男性中心になりがちだ。そういう場に参加するのは、若者や女性、移住者にはとてもハードルが高い。オンラインになることで、少しだけのぞいてみる、ちょっと参加してみることが可能となり、まちづくりの場の門戸が開かれた。子どもを抱えながらの参加も、自宅からのオンラインだと誰もが自然に受け入れてくれる。
また、地域のまちづくり活動はどうしても役所・役場がある中心地で行われがちだ。広域合併した自治体の場合、住んでいる旧町村エリアから中心エリアまで赴くことに抵抗がある人も多い。地域内の地理性という制約を外すことができるのだ。地域外からの参加を促せることもプラスのポイントだ。我々も運営に関わっている岐阜県郡上市の地域創業支援プログラム「郡上カンパニー」。大都市住民と地域住民の交流により創業アイデアを生むプログラムで、大都市住民が郡上を何度か訪問することに加えて、頻繁なオンラインミーティングを重ねている。
この人口減少の時代、様々なカタチで地域と関わり続けてくれる関係人口の重要性が増している。
大都市居住者が出身地のまちづくりに参加するケースは増えている。しかし、常に参加の頻度・回数・交通費の問題がつきまとう。
インターネットを通じて定期的なまちづくりの機会に参加する(場合によっては、その後のオンライン飲み会も)。時には現地を訪問する。このオンラインとオフラインでともに関わるハイブリッド型関係人口を増やすことは、これからのまちづくりにとって、ますます大切になっていくにちがいない。
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